ヴィンテージで「生まれ年時計」を探すなら、確実な出生証明を持つ『シチズン 国鉄ホーマー』がオススメ

一般的なクォーツ時計より精度が劣る機械式時計における実用的なメリットの一つは、電池交換が不要ということと、長持ちするということです。きちんと定期的に整備していけば、10年、20年、30年と長期間に亘って使え、清掃や注油、部品交換などを通して、100年以上使うことも不可能ではありません。永久修理保証(有料だけど修理は断らないということ)を謳っている高級ブランドもいくつかあります。

そんな長持ちする機械式時計の好事家にとっての楽しみの一つに、自分の生まれた年に製造された腕時計を愛でるという、ポエティックな行為があります。

これは、自分と同じ年月を生きてきた時計に対して、ノスタルジックに自らの人生遍歴を重ね合わせて悦に入るという、ややナルシスティックな行為ではありますが、本ブログの時計記事で繰り返し強調しているように、腕時計の好事家は自らの美意識が結晶化したような時計を選ぶことを通して、面倒くさい世の中の押し付けがましいルールや評価に対して美意識のバリアを展開できるタリスマンを求めているという視点に立てば、それはある意味セラピューティックな行為であり、自分の本当に好きなものを他人の意見や不便さを気にせず追求するというエステティックな趣味とも言えます。

そんな生まれ年時計として、ロレックスやオメガ、グランドセイコーなどの製造年がわかるヴィンテージの個体を購入することもそれはそれで良いのですが、本記事ではもっと安価に、そして「確実な出生証明を持つ」時計を、あなたのコレクションに加わるべき生まれ年時計の候補としてご紹介します(ただし40代後半から60代のひとに限る![2026年現在])

支給年が刻印された『国鉄ホーマー』

それは『国鉄ホーマー』とも呼ばれる1960〜70年代に国鉄職員に支給されていたシチズンのホーマー(Homer)という手巻き式の腕時計です。ちなみに、Homerは「ホメロス」「ホームラン打った人」「伝書鳩(家に帰る鳩)」「黄色いおっさん」という意味があります。「電車のホーム」に安全に帰ってくるという意味を込めてHomerにしたのではないかと想像してしまいますが、商品名を決める時に、すでに国鉄への採用が決まっていたかどうかは知りません。

国鉄職員に支給されたホーマーは、時計の裏蓋に、職員への支給年(=必ずしも製造年ではないかもしれませんがそこはあまり気にしない)が刻印されています。時計の製造年は、残っていれば購入証明書や保証書、機械の固有番号や型番情報などから調べることしかできませんが、この時計は、時計自体に支給年が刻印されているため、まるでお誂えの記念時計のようで実にロマンティックです。

さらに、当時の国鉄組織を構成した各地の鉄道管理局の略称も刻印されており、誕生年だけでなく、自分の生まれた土地の管理局名称も合わせることで、さらにファンタスティックが捗ります。

というわけで、いまから6年前(2020年)、1977年大阪生まれの私は、「昭52」と「大鉄」(大阪鉄道管理局)の二つが刻印されたホーマーを探していました。国鉄ホーマー自体は、支給数も多かったのか、中古品はヤフオクなどに多数出ています。しかし、支給年と管理局のどちらか一方だけを満たすものなら割と容易に見つかるのですが、両方を満たすものはなかなか見つかりませんでした。

そんなこんなでネットを検索していたら、まさにドンピシャの「昭52」「大鉄」の刻印のある国鉄ホーマーを紹介されているブログを発見。そのブログ『ときちけは趣味が生きがい!』さんには、国鉄ホーマーに関する、より詳細な蘊蓄が語られていますので、興味のある方は、ぜひ以下の記事をご覧ください。

国鉄ホーマー レビュー -三番線、電車が参りまぁす! - ときちけは趣味が生きがい!

この記事を読んで、遂に見つけた国鉄ホーマーにいてもたってもいられなくなった私は、シンガポールに住んで「ダメで元々」精神が身についていたのでしょうか。厚かましくも、面識のないブログ主さんに、「譲ってもらえませんか」というメールを無意識のうちに秒で送信していました。

したところ、ブログ主のときちけさんは、私の厚顔無恥なお願いをすぐに快諾していただき、取引成立。このほどわざわざシンガポールまで送ってもらい、遂に念願の、生まれ年の国鉄ホーマーを入手することができました。ときちけさんには改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。

飾るところのない道具としての鉄道時計

さて、これが入手した国鉄ホーマーです。飾るところのまったくない控え目な佇まいが、50歳を目前にしたおっさんの目には実に魅力的に映ります。

Citizen Homer 国鉄ホーマー

安全な鉄道の運行管理上、正確な時刻を知ることは極めて重要であったことは言うまでもなく、ホーマーは、その至極真っ当な目的を第一に作られた機械式時計です。

セイコーが最初のクォーツ時計「アストロン」を発売したのが1969年。ホーマーが国鉄に供給されていた70年代は、急激に低価格化したクォーツ時計が機械式時計メーカーの多くを倒産に追いやった「クォーツショック」前夜とも言える時期でした。

つまり、クォーツショックを経て、機械式時計が精度以外の付加価値やブランド性を幾重にも纏った極めて趣味性の高いモノとして復活した今日から見ると、この国鉄ホーマーは、機械式時計が趣味性ではなく実用性のみで輝いていた最後の時代の時計であり、本当の意味での「ツールウォッチ」と言うことができると思います。

現代にはありそうで、ないデザイン

文字盤はホワイト(実際はアイスブルー。後述)で視認性は抜群です。ドルフィン針およびミニッツトラック(5分毎)には夜光塗料が塗られています(残念ながらこのホーマーは、時針の塗料が経年で禿げています。しかし私も経年で徐々に禿げてきているので生まれ年時計としての精度は高いと言えるでしょう)。

ケースや風防の形状と質感は、過度な高級感を目指すのではない、官給品としての鉄道時計=プロフェッショナルなツールウォッチとしての頑丈さ、使いやすさを追求した結果として、道具感のある生真面目な雰囲気を時計に与えています。これは現代にはありそうでなかなかないデザインです。

レトロ感に一役買う風防と夜光塗料の塗られたマーカー

約3mmほども出っ張ったボックス型の風防を入れても時計の厚みは約9mmで、機械式時計としては薄型の部類に入ります。

なお、「使いやすさを追求」とは書いたものの、「CTZ」のサイン付きクラウン(リューズ)はちょっと小さく、やや巻きづらいです。手巻きの時計は、バネの逆回転を防止するコハゼという部品に負荷をかけないよう、上方向に巻いた後はすぐに指を離さず、そのまま下に少し巻き戻したほうが良いため、指が乾燥していると少しやりにくいかもしれません。

裏蓋の刻印

そして、私と同じ年に生まれ大阪で育ったことを証明する裏蓋がこちら。

昭52(1977) 0005 大鉄

通常、高級時計の裏蓋などに刻印されている固有番号は、ブランドや正規販売店が管理しており、なりすましや偽造などで悪用されないよう、インターネットには写真を上げないほうが良いのですが、ホーマーの裏蓋の数字は、当時の大阪鉄道管理局(大鉄)において、その年に支給された時計の「シリアルナンバー(個別管理番号・支給番号)」ではないかと思います。

で、この「5番」という若い数字は、昭和52年の1月、つまり私の誕生月に支給された可能性があり、余計にドラマティックで嬉しかったのですが、よく考えると1月に支給されたということは前年の昭和51年に製造された可能性も高い気がしてきたものの、そこはオプティミスティックに、昭和52年1月に製造されて新年度の始まる4月に支給されたと考えることにしつつ、私にとってシンボリックなこの時計を大事にしていこうと思います。

手巻きムーブメント Cal. 9111

はめ込み式の裏蓋を外して見ると、もうすぐ50歳になろうというシチズン Calibre 9111が、頑張って時を刻んでいました。裏蓋ははめ込み式なので工具で簡単に外せます(しかし水には非常に弱いということ)。

Citizen Calibre 9111

凝った装飾はほぼない、ロバストな風情漂う手巻きムーブメント。細かいブラッシング仕上げはなされています。秒針停止機能付きで、パワーリザーブ 約40時間ということですが、現在の精度はとくに調べてはいません。

アイスブルーの文字盤

文字盤は一見ホワイトですが、実はわずかに青みがかった白で、アイスブルーらしいです。下の写真でも青みがわかるでしょうか。

アイスブルーの文字盤

装飾性が一切ないと見せかけて、商品名の筆記体文字とともに、しれっと洒落感を醸し出しているところが実に心にくいです。光の当たり具合によっては、そのブルーの色味が風防の内側に反射して、シルバーの針が青焼き針のように輝く瞬間もありました。こういう光の加減で表情が変わるところは、丁寧な作りをされている証拠です。直径は36 mmで、着け心地も良好です。

黒の革ベルトが似合う?

鉄道職員といえば「黒い鞄」「黒い革靴」からの連想もあって、黒の革ベルト一択でしょう。

とか言いながら、2年ほど前(2024年)、ベルトを青緑に変えてみました。

腕時計ベルト専門店『Normad Watch Works』で青緑のベルトとウォッチロールを買った

青緑だとなんとなく公務員的な雰囲気が出ると思い、実際いい感じではあるのですが、最近はやはり黒のコードバンのベルトにしようかと考えています。

クラシック回帰への手頃な選択肢としてもおすすめ

日本人の真面目さと勤勉さというイメージ(あくまでイメージ)を具現化したようなシンプルで端正な顔付きは、足るを知るミニマリスト的な感性を持つ最近の若い人の心も捉えそうです。

それほどレアでもなく、中古市場では、状態のあまりよくないものだと1~2万円代で結構見つかります。状態の良いものなら、3~6万円程度で取引されているようです(2026年5月現在)。

最近どんどん高くなり続ける高級腕時計の多くは、余程お金に余裕がない限り、もはや人件費の上昇や歴史の重み、投資、趣味性などでは購入することの言い訳が言い訳しようのないくらい言い訳がましくなってきました。

そんな中にあって、価格は手頃で実用的、かつ丁寧なつくりの時計を楽しめるヴィンテージ時計は非常に魅力的です(雨・水・汗には要注意)。

あなたも生まれ年の国鉄ホーマーを探してみてはいかがでしょうか。

SPECIFICATIONS

モデル名:Citizen Homer(国鉄支給品・通称「国鉄ホーマー」)
型番:不明
ケース素材:ステンレス鋼
ムーブメント:手巻 Cal. 9111
文字盤:アイスブルー、アラビア数字
直径:36 mm
厚さ:9.0 mm
ラグトゥラグ:44 mm
ラグ幅:18 mm
防水性能:非防水(ヴィンテージのため汗・雨は厳禁)
価格:2万円~6万円(中古)※2026年5月現在

前へ
前へ

インドネシアの『ラピスレジット(レイヤードケーキ)』というあまりにも濃厚な伝統ケーキについて

次へ
次へ

至高のドレスウォッチ『Jaeger-LeCoultre Master Ultra Thin 34』は中古車より安く買えます